企画セッション

ソフトウェア検証と機械学習 2021/11/10 10:30–12:30

オーガナイザ:蓮尾 一郎(NII)

卜部 夏木(国立情報学研究所)https://group-mmm.org/~nurabe/

論理的推論と統計的推論の融合 [スライド]

形式検証はソフトウェアが正しく動くことを数学的・記号論理的推論に証明することによりその品質を保障する手法である。本講演では機械学習を支える統計的推論と形式検証を支える論理的推論の融合について論じる。論理的推論と統計的推論の融合としてはまず「形式検証に機械学習を利用する」と「機械学習を形式検証する」という二つの形を考えることができるが、本講演では特に後者について最近の研究例のサーベイを述べる。また本講演では前述の2つとは別に、「統計的不確かさの論理的封じ込め」という論理的推論と統計的推論の融合の形についても議論する。形式検証は強力な手法であるが、一方で実世界のシステムにはその全体ないし一部がブラックボックスであり不確かさが避けられないものも存在する。反例生成・責任感知型安全論など、このような不確かさを論理的に封じ込める手法を述べる。

関山 太朗(国立情報学研究所・総合研究大学院大学)https://www.nii.ac.jp/en/faculty/architecture/sekiyama_taro/ 

機械学習によるループ不変条件の発見 [スライド]

本講演でははじめにプログラム検証について概説する.プログラム検証における普遍的な課題はループ(あるいはそれに類する再帰的構造)を含むプログラムの検証であり,そのためにはループ不変条件と呼ばれる,ループの実行前後で保存されるプログラム状態に関する性質を発見することが重要となる.正しい不変条件を発見することは一般には決定不能な問題であり,これまでに不変条件発見のためのヒューリスティックが数多く提案されてきた.講演の後半ではループ不変条件発見の「良いヒューリスティック」を統計的機械学習によって獲得するために我々のグループが行っている研究を二つ紹介する.一つは強化学習により不変条件の探索範囲を徐々に拡大する戦略の学習 [Tsukada, Unno, Sekiyama, Suenaga. arXiv’21],もう一つは不変条件の基本単位となる原子命題をニューラルネットワークの学習を通じて発見する研究 [Kobayashi, Sekiyama, Sato, Unno. SAS’21] である.

勝股 審也(国立情報学研究所)https://group-mmm.org/~s-katsumata/index-e.html

回帰型ニューラルネットワークの圏論的分析 [スライド]

圏論は理論物理学や計算機科学などに幅広い応用を持つ抽象代数の一つである。近年、機械学習に表れる概念やアルゴリズムを圏論の観点から捉え直すことで、それらのより良い理解と実装を導く研究が活発に行われている。本発表の前半では計算機科学の立場から圏論の導入を行い、後半では回帰型ニューラルネットワークの圏論的モデルにおける微分構造が通時的誤差逆伝播法と対応することを示したSprungerとの共同研究 [Sprunger & Katsumata, LICS’19] を紹介する。

新型コロナウイルス感染症のデータサイエンス 2021/11/11 9:30–12:00

オーガナイザ:伊藤 公人(北大)

伊藤 公人(北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所)

集団遺伝学による新型コロナウイルス変異株の流行予測 [スライド]

ウイルス感染症において,変異株の従来株に対する選択優位性は,変異株の従来株に対する相対的な実効再生産数と考えることができる。これに基づき2021年6月21日に新型コロナウイルスのデルタ株の相対的な実効再生産数を推定し,デルタ株の割合についてその後の推移を予測した。解析時までに日本国内で確認された変異株の数から,R.1株,アルファ株,デルタ株の実効再生産数は,従来株のそれよりそれぞれ1.25, 1.44, および1.95倍高いことが推定された。また,デルタ株による感染者数は,東京オリンピックが開幕する2021年7月23日より前にアルファ株の感染者数を上回ることが予想された。本発表では,その後実際に観測されたデルタ株の割合の推移を元に予測を検証する。

國谷 紀良(神戸大学大学院システム情報学研究科)

行動変容と感染症の再帰的流行の数理モデリング

新型コロナウイルス感染症の流行(COVID-19)において,各国で再帰的な流行の波が確認されている.特に国内では,流行拡大期に緊急事態宣言が発令され,宣言中に流行が抑制され,宣言解除後にリバウンドが起こるという事例が見られた.本研究では,このような介入に伴う集団の行動変容が感染症の再帰的流行の一因となりうるという立場から,人々の心理効果を導入した感染症の数理モデリングを行う.そのようなモデルにおいて,再帰的流行を表すと考えられる周期解が発生する条件について,力学系理論の立場から考察する.

西浦 博 京都大学大学院医学研究科

COVID-19の疫学モデル

新型コロナウイルス感染症の疫学動態の把握において、世界中で数理モデルが利用される機会が爆発的に増加した。予防接種が人口内に入るまでの間は非特異的対策として人口全体の接触やハイリスクな接触を避ける対策が実施されてきたが、その設計のためにリアルタイム分析が頻用されるようになった。その過程においては様々な予測分析やリスクの濃淡に関する異質性の分析が実施されている。本講演では,その目的や技術的問題点、今後の課題などについて整理してご紹介する。

因果推論 2021/11/12 10:30–12:30

オーガナイザ:清水 昌平(滋賀大)

黒木 学(横浜国立大学)

原因の確率-必要性,十分性,必要十分性とその定量的評価-

ある事象がもう一つの事象に対する原因となっているのかどうか (原因の確率: Probabilities of Causation(PC))を評価することは実質科学における主要課題の一つであり,医学・社会科学といった実質科学の諸分野だけでなく,情報科学分野でも議論されるようになりつつある.原因の確率は,文字どおり受け取れば,事象間の因果関係に密接に関係する問題であるため,観測情報だけでは評価することはできない.また,原因の確率は,その問題背景にしたがって,必要性 (Probability of Necessity: PN),十分性(Probability of Sufficiency: PS),必要十分性(Probability of Necessity and Sufficiency: PNS)といった3つの側面を持つ.これらのことを踏まえながら,本講演では,観察データや実験データに基づいて原因の確率の存在範囲を定式化するとともに,その識別可能条件について紹介し,統計的因果推論における重要性について述べる.

林 岳彦(国立環境研究所)

“バンドメンバー”としての統計的因果推論を考える

統計的因果推論の話題をするとき、人は”フロントマンとしての統計的因果推論”を語りがちである。そこでは統計的因果推論が研究の中核となる事例が多く注目され、帰納的推論のゴールド・スタンダートとしてRCTに基づく研究がしばしば”主役級”のストーリーとして語られる。しかし、統計的因果推論という妖刀であらゆる問題を悪即斬することを期待されるごく一部の”統計的因果推論の専門家”を除けば、少なくない分野の一般の研究者/データ解析者にとって、統計的因果推論はある研究対象についての有効な推論の一部を構成するためのツールの一つでしかない。そうした必ずしもフロントマン的役割ではない “一介のバンドメンバーとしての統計的因果推論”の役割と可能性を考えてみると、統計的因果推論が、幾つかの異なる学問的方法論の中継ぎ地点になりうることや、介入効果を推定すること以外での貢献を研究プログラム全体に対してもたらしうることが見えてくるかもしれない。また、統計的因果推論だけでは推論や研究が完結しない場合などに、他の方法論とどう支え合って全体的な推論を構成しうるかという論点が浮かび上がってくるかもしれない。本発表では、発表者らのグループが行ってきた環境科学分野での統計的・非統計的な因果推論の研究事例を交えながら、統計的因果推論が”一介のバンドメンバー”として研究プログラム全体にもたらしうるものについて議論したい。

Elias Bareinboim (Columbia University)

On the Causal Foundations of AI [スライド]

In this talk, I will discuss how causality and AI and use the Pearl Causal Hierarchy as a tool to explain this relationship.

Recommend references/pointers:

  1. On Pearl’s Hierarchy and the Foundations of Causal Inference
    E. Bareinboim, J. Correa, D. Ibeling, T. Icard.
    In “Probabilistic and Causal Inference: The Works of Judea Pearl” (ACM Special Turing Series), forthcoming.
    https://causalai.net/r60.pdf
  2. Causal Reinforcement Learning: https://crl.causalai.net/
  3. Neural Causal Inference: https://causalai.net/r80.pdf

量子計算と機械学習 2021/11/12 13:30–15:30

オーガナイザ:津田 宏治(東大)

藤井 啓祐 (大阪大学)

量子機械学習:理論・実践・現状・展望 [スライド]

近年、量子デバイスの進展にともない、量子コンピュータの機械学習分野への応用研究が盛り上がりを見せている。しかしながら、量子機械学習の理論やその利点などを議論する理論的枠組みは未だ未発達な状況であり、今後、機械学習分野の研究者の参入が欠かせない。本講演では、最近明らかになりつつある量子機械学習の理論的枠組みについて、カーネル法の観点から解説し、実証実験の結果や、今後取り組まないといけない課題についてご紹介する。

柳井 毅(名古屋大学)

ニューラルネットワーク波動関数を用いた量子化学計算法

分子の化学反応や性質を予測する量子化学計算では,価電子の多電子波動関数を精密にシミュレーションする必要がある。本研究では,ニューラルネットワークを用いて波動関数の量子もつれ構造をモデル化し,分子の波動関数として学習するアルゴリズムの開発について紹介する(P.-J. Yang. M. Sugiyama, K. Tsuda, and T. Yanai, J. Chem. Theory Compute. 2020, 16, 3513–3529)。本研究では,制限ボルツマンマシンに加えて,隠れ層無しの高次ボルツマンマシンをモデルとして導入する拡張を行った。また,量子機械学習を取り入れるアルゴリズムの開発についても紹介する。

門脇 正史 (デンソー)

量子アニーリングと機械学習の交差点 [スライド]

量子機械学習と呼ばれる量子コンピューティングと機械学習の境界領域が近年注目されている。その中で我々が取り組んでいるテーマを二点紹介する。一つはブラックボックス最適化で、もう一つは次世代量子アニーラ向けの最適化アルゴリズムである。ブラックボックス最適化で代表的なベイズ最適化は、コスト関数が陽に与えられていない状況において逐次的にデータを取得しながら最適化を行う手法である。これはガウス過程による回帰を行う連続変数の最適化手法であり、微分可能な獲得関数の最大化問題に帰着できる。一方で、コスト関数が二値変数など離散変数の場合のブラックボックス最適化は、ほとんど研究されていない。近年、量子アニーラなどの制約なし二次形式二値変数最適化(QUBO)ソルバを利用して、離散変数のブラックボックス最適化を行う研究がBaptistaとPoloczekや、北井らにより提案された。これらの手法を行列の非可逆圧縮や、電子基板の耐振動設計に適用した事例を紹介する。もう一つの、次世代量子アニーラ向けの最適化アルゴリズムでは、量子デバイスが受けるノイズの影響を低減するために、より短いアニール時間で最適解を探索するアルゴリズムについて議論する。近年、従来の量子アニーリングに新規の相互作用を加えたときの性能が理論的に検討されている。我々は、この新規相互作用を制御するパラメータと基底状態(最適解)の探索性能との関係から、解空間を逐次的に絞り込む手法を考案した。小さな系のシミュレーションでは、短いアニール時間で従来の量子アニーリングやシミュレーテッドアニーリングに対して、より高い確率で基底状態が得られることが分かった。