第三日目:イベント概要

招待講演
深層学習の基礎:自己組織化と教師付学習
理化学研究所脳科学総合研究センター 甘利俊一


深層学習が一世を風靡している。その能力には驚くべきものがあるが、その理論的な根拠が理解されているとは言い難い。目下のところ工夫を積み重ねてうまくいったからそれでよい、というレベルであるが、少しずつ理論も深化しているように見える。本講演では、自己組織化の基本原理、それに教師付学習のダイナミックスにおける特異構造の様相(トポロジー)とその近傍における自然勾配学習の振る舞いについて、その基盤を明らかにする。それとともに、最近の理論の進展に触れ、これから何を解明しなければいけないのかを考えて見たい。さらに、将来の展望として、人の意識や後付け(postdiction)の機能が人工知能や学習の研究に及ぼす影響にも目を向けたい。

 

企画セッション3: 物質・材料科学への機械学習の応用


  • 人工知能技術による機能分子・物質設計
    東京大学  津田宏治

    核酸・タンパク質などの生体高分子や、物質・材料研究における金属・セラミック・ナノ粒子など、望みの機能を持つ分子を設計することは、科学的・産業的に大きな意義を持つ。本講演では、ベイズ最適化やモンテカルロ木探索などの人工知能技術を用いた分子設計技術を紹介し、RNAの二次構造設計・金属界面の構造最適化・データベースからの低熱伝導度材料発見などの適用例を述べる。

 

  • 科学と機械学習のあいだ:変量の設計・変換・選択・交互作用・線形性
    北海道大学 / JSTさきがけ  瀧川一学

    機械学習はそもそも汎用的な枠組みであり基本的には対象分野に依らず利活用できる。従って、分野を限定して物質科学に機械学習を活用するなどと言う場合、その本質的難所の大部分は、有効な変量の設計・変換・選択・交互作用・線形性などに関する、いわゆるfeature engineeringの問題に帰する。特に、科学研究では端的な説明因子や共通パターンの探究こそが目的であることが多く、その場しのぎではない方法論が期待されている。本発表では、医薬品、機能制御剤、有機EL材料、食品、化粧品、と波及範囲が広い有機低分子について、その物性の予測と生物活性の予測の違いを例に、関わってきた問題・方法・課題について紹介する。

 

  • パーシステントホモロジーと機械学習
    東北大学 平岡 裕章

    本講演では、パーシステントホモロジーと機械学習を融合させた位相的データ解析手法について解説を行う。パーシステントホモロジーとは今世紀に開発された「データの形」をマルチスケールで特徴付ける数学的手法であり、材料科学、脳科学、生命科学などの様々な分野への応用が進められている。この講演では、パーシステントホモロジーについてトポロジーの予備知識を仮定せずにまずは解説し、その後にカーネル法を中心とした統計的手法との融合とそれらの材料科学への応用について幾つかの結果を紹介する。

企画セッション4: 神経・脳科学からの学習理論


  • 動的ボルツマンマシン
    IBM東京基礎研究所    恐神貴行

    ボルツマンマシン等の従来の人工ニューラルネットワークはヘブ則に基づいて学習するが、近年の生物実験においてはヘブ則をより精緻にするスパイク時間依存可塑性(STDP)が神経細胞の学習則として確認されている。ところが、STDPの人工ニューラルネットワークへの工学的な応用はあまり進んでいない。本講演では、STDPに対する理論的な基礎付けを与えるために、各時点に対応する層をもつボルツマンマシンを考え、層数無限の極限として動的ボルツマンマシンを導出する。特に、所与の時系列データの尤度最大化という目的関数から導出される動的ボルツマンマシンの学習則が、STDPの特徴を有することを示す。また、時系列予測や強化学習などへの応用についても紹介する。本発表はJST, CRESTプロジェクトの成果に基づく。

 

  • AI for Scienceと脳型人工知能

    東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 岡田真人

    AIの科学への応用(AIforScience)と脳型人工知能について講演する.まず,欧米の巨大IT産業の動向にもとづき,科学をAIによって加速するAIforScienceが,今後のAIの研究にとっても重要なターゲットであることを指摘する.AIforScienceの一つのアプローチであるデータ駆動科学を紹介し,データ駆動科学における脳型人工知能開発の重要性を示す例を紹介する.次に,私が数理脳科学や計算論的神経科学の立場で行ってきた,ネオコグニトロンに関する研究,連想記憶モデル,情報統計力学,ベイズ推論にもとづく運動知覚の空間的バインディング,側頭葉の顔応答細胞のダイナミクスなどの研究を紹介する.最後に,これらをもとに,AIforScienceと脳型人工知能の今後の展望についての私見を述べる.

 

  • 脳の生物学的特徴と学習( Brain’s biological machinery for learning)
    理化学研究所脳科学総合研究センター  深井朋樹

    脳も機械も学習することによって情報処理能力を獲得するが、両者の学習はどこまで同じで、どこから違うのだろうか。神経細胞は信号伝達に活動電位(スパイク)を用いるが、神経回路モデルや機械学習では多くの場合発火率という時間的に平均化した信号を用いる。ところが、情報処理や学習にスパイクを用いることの利点はまだ明確にはされていない。また神経細胞は樹状突起という、単なる電線とは見做せない複雑な構造物を有するが、樹状突起が情報処理や学習に果たす役割の理解も十分とは言えない。そこで本講演では、独立成分分析というよく知られた例においてスパイク発火の同期を用いて信号分離を行う試みを紹介して、スパイクによって得られた計算上の利点を議論する。また時間が許せば、樹状突起が学習において果たす役割を、海馬の場所記憶を例にとって、大脳皮質の解剖および生理学的特徴に照らして議論したい。