開催趣旨

開催趣旨

機械学習が人工知能の一分野として誕生してから半世紀、機械学習は様々な発展を遂げてきました。理論面での成熟のみなら ず、現在では自然言語、音声、マルチメディア処理、そして、バイオ、創薬、脳科学等の様々な分野においても機械学習は主要なツールとして位置づけられつつ あります。つい最近も、見事クイズ王に勝利した人工知能システムを支える基幹技術として機械学習が重要な役割を果たしたことは記憶に新しいことと思いま す。

また、ビジネスの世界に目を向ければ、巨大オンラインショッピングモールやソーシャルネットワーキングサービスをはじめとするさまざま なWebサービスにおいて機械学習が用いられていることが知られています。そして、サイバーフィジカルシステム、ビッグデータなどといった大きな流れの 中、基幹技術としての「機械学習」が一種のバズワードとして盛んに用いられてきています。また、書籍、セミナーなど機械学習を学習するための環境も次第に 整いつつあり、いまや機械学習に興味をもった初心者が最初の一歩を踏み出す障壁は限りなく低くなったといえるでしょう。

このように機械学習 が注目を浴びている背景としては、機械学習技術が「ビジネス的にも価値をもつような重要な実問題において力を発揮できる」ところまで熟成したといえるよう になったところがあります。そして今、世の中の目が機械学習に向いているという事実は我々機械学習コミュニティにとっては大変な追い風であり、同時にこれ は我々のコミュニティが正しく発展してきたことを示すひとつの根拠であるといえるでしょう。

しかし、その一方で不安もあります。機械学習が 様々な実問題において成功裏に用いられるにまで成熟し、そしてその学習基盤が整いつつあるということは、ひいては差別化技術としての陳腐化、そして研究 テーマとしての終わりをもたらすのではないかという不安です。また過度な期待と、それにそのまま応えることができないのではないかという恐れも禁じ得ませ ん。

このような中、我々機械学習コミュニティが、他分野の研究者、技術者、そして世のなかに対して行うことができるのは、機械学習技術への 正しい理解の促進と同時に「まだ機械学習には限りない可能性がある」というメッセージを発することであると思います。学習理論、最適化、アルゴリズムな ど、機械学習研究の最先端では日々新たな進展が起こっており、これらによって拡げられる新しい応用はまだまだあるはずです。そして、機械学習の最先端の情 報を正しく発信していく義務は我々にあります。一方で、我々自身もまた、外の世界へ目を向け、応用の最先端において何が起こっているのか、そこでどのよう に機械学習が用いられようとしているのか、そして我々が真に解くべき問題は何かを学ばねばなりません。

第15回を迎える今年の情報論的学習 理論ワークショップは第11回電子情報通信学会 情報論的学習理論と機械学習(IBISML)研究会として位置づけ、「フロンティアとフロンティアの邂逅」をテーマに、機械学習研究の最先端と応用の最先 端で何が行われようとしているのか、その問題意識を共有し、よりよい未来を目指すために手を取り合う、そのきっかけとなるような集まりとしたいと考えま す。