第三日目:イベント概要

企画セッション:計測インフォマティクス (9:30 – 11:30)

データ駆動的アプローチに基づくキャタリストインフォマティクスへの挑戦

講演者: 永田賢二(産総研)
触媒は石油精製,石油化学,ガス精製,食品開発,ファインケミカルズなど重要産業の礎であり,高性能な触媒開発を目的とする触媒化学は,多様な産業や社会問題の解決に注目されているが,研究者の勘や経験に基づく触媒設計・手作業による実験・合成などを経て実用化されるまで数十年かかることも珍しくない.こうした触媒開発の効率化を情報科学により実現する「キャタリストインフォマティクス」が近年提唱されている.本講演では,分子触媒の設計を目的とし,スパースモデリングによる触媒反応の予測システムの構築について紹介し,機械学習やデータ駆動的アプローチが触媒化学を促進させる可能性について議論する.

データ解析からの感染症流行制御への挑戦

講演者: 大森亮介(北大)
感染症は現在でも尚主要な死亡原因の一つとして挙げられており、多くの感染症ではその治療法や予防法が確立されている。予防法の一つにワクチン摂取があり、非常に効果の高いワクチンが開発されている。しかしながら、ワクチンが発明されて200年以上経った今でも制御に成功した感染症は天然痘のみである。これは効果的なワクチン摂取が行えていないことに起因しており、感染症流行ダイナミクスの理解を基とした制御が求められている。これに対し感染症疫学では、流行ダイナミクスを記述した数理モデルを構築し感染者の時系列情報にあてはめ、流行ダイナミクスの推定および予測を行ってきた。しかしながら、感染者の時系列情報は入手が困難であることが多く、適当な代替データの提案とその活用が求められている。本講演では、我々が行ってきた病原体の遺伝子配列の時系列情報を代替データとして感染症流行ダイナミクスを解析する方法の開発について紹介する。

数理情報科学による地球科学逆問題への挑戦

講演者: 桑谷立(JAMSTEC)
地球科学の数理的本質は逆問題である.結果としての観測・計測データから,原因となる生成プロセスをいかに抽出するのかが,あらゆる地球科学諸分野の難題を解く鍵となる.我々の研究グループではこれまで,津波堆積物・スロー地震・岩石形成ダイナミクスなどの様々な対象に,ベイズ推論やスパースモデリングを含む数理科学的手法を用いることで,我々の知りたい本質的な情報の抽出に成功してきた.本講演ではいくつかの実例を紹介するとともに,現状での課題や発展の可能性について議論する.

企画セッション:メディアデータの表現学習(13:00 – 15:00)

コンピュータビジョンにおける無教師学習の進展とその課題 [スライド]

講演者: 斉藤真樹(PFN)
これまで困難と考えられていた自然画像の無教師学習は、敵対的学習をはじめとする無教師学習の著しい進歩によってその性能を急速に高めつつある。本講演では、高品質な画像生成に代表されるビジョン分野での無教師学習問題の進展について俯瞰した後に、現在のモデルがどういった内部表現を獲得しているか、その内部構造に関する現在の知見について言及する。最後に、それらを踏まえた上で無教師学習に対する今後の課題について述べる。

音声分野における敵対的学習の可能性と展望 [スライド]

講演者: 亀岡弘和(NTT), 高道慎之介(東大)
敵対的学習 (GAN) は、音声分野においても、音声合成・声質変換・音声強調などの有効な手段として注目されている。本発表では、音声分野における利用事例に基づいて「音声分野から見たGAN」を示すとともに、音声分野の更なる発展を見据えてGANの可能性と展望を議論する。

知識グラフデータベースの分散表現 [スライド]

講演者: 林克彦(阪大), 上垣外 英剛(東工大)
自然言語処理研究の中心は論理や形式言語を基礎とした離散記号処理である。特に、大規模な知識グラフに対する分散表現とデータベース検索の統合は、質問応答・推薦システム・ウェブリンク解析など多くの応用を含んだ興味深い課題だと考えられる。ここでは知識グラフの分散表現に関わる研究の現状について、講演者の視点からまとめたい。

招待講演2:西森秀稔(東工大)(15:30 – 16:30)

量子アニーリングの理論およびハードウェアの現状と展望 [スライド]

量子アニーリングは組み合わせ最適化問題の量子力学的汎用近似解法として提案され,D-Waveがハードウェア的に実現して市販したことで広く知られるようになった。ここ数年は組み合わせ最適化問題を超えて,サンプリングや量子シミュレーションへの適用が始まるなど思わぬ広がりを見せている。また,この分野は基礎理論,実社会問題への応用,ハードウェア開発が近い距離で一体化して進行しつつあり,例えば実装された量子ビット数などひとつの側面にだけ注目すると全貌を見失う状況にある。本講演では理論,ソフト、ハードウェア,社会実装など多角的な観点から現状を紹介し,近い将来に向けての展望や課題を述べる。